五輪は仏教でいう「地・水・火・風・空」の五大五輪をかたどり、形からいえば、「方・円・三角・半月・如意珠形」である。また「是五方也」によれば、「上・中・下・右・左」を示すといわれる。
『五輪書』は、宮本武蔵が著した一書であるが、たんなる武術の指南書や奥義書ではない。人間の真実、人生の真実をも解きあかした古今有数の思想書といわれる。
その概要は、「地之巻」では兵法のあらまし、「水之巻」では二天一流の太刀筋を、「火之巻」では戦いの理を、「風之巻」には他流の批判を述べ、「空之巻」は結論となっており、五大五輪の思想とは格別の関連はないが、『五輪書』は、あくまで二天一流の基本的伝書として記されているものの、ここに表れている武蔵の思想には、他の兵法者(書)とは著しく異なる。
つまり『五輪書』には、二つの特色が見受けられる。その第一は、武蔵独特の兵法観を他の流祖たちのように、神仏の加護を説いて自流の権威づけをおこなったり、禅理を兵法に借用することなく展開していることである。第二は、勝負を通じて体得した原理を、単に個人の戦いに止めず、集団における戦いから、一国の政治にまで適用できると説いたところにある。言い換えれば、「文武両道」という言葉があるが、まさにこの意味が一致する思想といえる。
そこで、作庭にあたっては、武蔵の生誕地でもあることから「五輪之庭」をテーマにした創作を試みた。つまり、「五輪」を仏教でいう五大五輪と形や五方にちなみ、かつ武蔵の著した『五輪書』の趣旨を生かした作庭とした。ここからでてくるのは、「文武両道」の思想であり、これはまた人生の指針でもあるといえる。また宮本武蔵は播磨において、明石城下の作庭にも係わっていることなどから、この趣旨を庭園という形で作庭に生かし表現することに大きな意義があるものと感じる。
この五輪の石組についての手法上の点を述べると、
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「地之石組」は、三個の石を、地中深く沈止して「沈思黙考」しているかの如く動かぬ手法を用いた。 |
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「水之石組」は、地上の大切な要素として存在しており、また流れを形成しており、同時に滝石組で水を表現する。 |
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「火之石組」は燃えいずる情熱を表した。 |
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「風之石組」は、暴風吹き荒れる様を抽象的に表現する構成とした。 |
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「空之石組」は、無限に広がる天体であり、また千変万化する姿である。 |
この趣旨を考慮しながら、伝統的な枯山水の石組表現とする。
西 桂(庭園研究家)
西 桂氏は庭園に関する多くの著書をだされているが、平成16年11月に『兵庫県の日本庭園ー歴史と美を訪ねてー』(発行 神戸新聞総合出版センター)(\1,785)を刊行され、西光寺の「五輪之庭」も紹介されている。
五輪の心
五輪とは地・水・火・風・空の、五大、宇宙をさすが、五体をもさす。
つまり自分の身体から、私たちのまわり、大自然までを包含している。
地は全てを生み、育む。地の石組に右膝、足を思い、母・妻を想う。
水は私たちの周りに満ち流れている。水の石組に左膝、足を思い、兄弟、姉妹を想う。
火は激しく情熱を持っている。火の石組に右肩、手を思い、父・夫を想う。
風は見えない形で私たちを見守っている、風の石組に左肩、手を思い、祖先を想う。
空は限りなく広く大きい。空の石組に頭、首、腹を思い、仏、一切衆生を想う。
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